求める優秀な社員への対応

会計事務所A社(創業25年、社員6名)の社長より、自社に足りない「優秀な社員」を採用したいと相談がありました。社長の考える「優秀な社員」を整理すると、変化に対応できる人材、コミュニケーション能力、専門性及び自己管理能力の高い人材でした。これら要素をすべて満たした人材を採用することは難しいため、既存社員の性格適性検査や勤務実態を一覧表にし、何処を補填するのか分析しました。

 

 

A社の問題点は、同調圧力が強く変化を避ける社風、顧問先の管理を個々の社員が独自に行うため情報共有など社員間の連携が取れていないこと、スケジュール管理が不得手で期限直前の対応となること、でした。

 

後日、欠点を補う人材を募集すると、運よくB子(39歳)の応募がありました。経験も豊富で、専門性、論理的思考力を備えています。コミュニケーションも取れるタイプで、しかも夜間大学に通いながら資格取得を目指し、概ねA社の望む要素を備えていたため即採用しました。

 

入社当初、社長はB子に気さくに声を掛けることで、関係は良好でした。半年後、環境に馴染んだA子は、高い成長意欲から業務改善に取り組み、社長に上申するようになりました。最初は、黙って聞いていた社長ですが、回数を重ねるうちに本質を突かれることに堪えきれなくなりました。話を遮り提案を否定する態度を見せるようになった社長に、B子は不満を漏らし始めました。このままでは、B子は退職してしまいます。

 

社長は、B子をA社の将来には不可欠な人材だと理解していましたが、気持ちの整理に少し時間を要しました。B子の退職を避けるためには、各提案に誠意を持って対応する姿勢を示すことが大切です。社長の気持ちの整理がついたころ、古参役員が同席し社長とB子の面談が行われました。

 

古参役員の取り計らいもあり、社長はB子の意見を最後まで聞くことが出来ました。B子へ感謝の気持ちを伝え、検討結果は後日伝えることにしました。その後、社長はとB子へ出来ることと実施時期を伝えました。早速、提案のいくつかは業務に取り入れられました。

 

中小企業のオーナー社長には、過去の成功体験に縛られるために、他人に意見されることを嫌い、思い通りに物事が進まないとキレてしまうタイプも少なくありません。採用難の中、運よく求める社員を採用できても、社長が社員から出された改善案に向き合わなくては、不満を募らせいずれ退職します。

 

今回のケースでは、古参役員の仲介により社員の要望にスムーズに対応できましたが、相応な仲介者がいつも同席できるとは限りません。社長自身で社員と向き合えるように自身が変化することが必要だと考えます。

 

「優秀な人材が来ない」と嘆く前に、良い人材を戦力化するためには、社長自身が能力の高い人材を受け入れるだけの包容力を身につけることが近道であると感じる出来事でした。

 

 

第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2022年4月号』拙著コラムより転載