引きこもりで障害年金を受給

 お世話になっている株式会社エフピー研究所のメルマガ掲載用に執筆したコラムです。

「強いこだわりを伴う“引きこもり”で障害年金を受給」

 

  2019年内閣府の調査により、自宅に6ヵ月以上閉じこもる40~64歳の「引きこもり」が、61.3万人と推計されています。16年に公表された同様の調査での15~39歳の引きこもり数は推計54.1万人。合計で110万人超、人口の1%弱が引きこもりであることを表す、驚く数字です。

 

 引きこもり状態の本人、家族から、障害年金を受けたいという相談をいただくことがあります。障害年金を知るきっかけは、・何か支援を受けられないかネット検索した、・相談機関から教えてもらった、・受診した医療機関から話があった、などそれぞれです。そして実際、受給に繋がることがあります。

 

 

 

■病名がつくことに気づかない

 

 人は社会で相互に影響し合う存在です。社会との接点を避けた生活を送る引きこもり状態は、確かに正常ではありません。ただ、だからといって必ずしも病気だとはいえず、一般的な感覚では診断名はつきにくいと思われます。それなのになぜ受給できたのかといえば、障害年金の対象になる診断名がついたからにほかなりません。

 

 よくあるのは、引きこもり生活の途中で精神疾患を発症し、必要な治療を受けていなかったケースです。ようやく受診し、「うつ病」や「躁うつ病」、「統合失調症」などと診断されることがあります。これらは障害年金の支給対象になる病名です。

 

 一方、「強迫性障害」という病名がつく方もいます。強いこだわりが出現し、やはり精神科で治療する病気ですが、この病名だけでは、基本的には障害年金の対象になりません。ところが、強迫性障害がありながら、まったく別の病名がつくことで障害年金が支給される方たちがいます。

 

 

 

■「強迫性障害」を起こすさらなる原因

 

 強迫性障害は、自分では意味のないことだとわかっていても、そのことが頭から離れず、わかっていながら何度も同じ確認を繰り返します。日常生活の支障になるほどの強迫性障害が、引きこもりの原因の一つになっていることもあります。

 

たとえば、次のような症状が見られます。

 

・体をきれいにしなければ、という思いに囚われ、風呂掃除から入浴を終えるまで、半日以上か

 かる

 

・清潔にこだわるあまり、本人が考える「完全に体を洗う」ことが不可能であるため、かえって

 何年も入浴できなくなった

 

・せっけんを数日で使い切るほど、1日に何度も、毎回時間をかけて洗うので、手洗いの時間だ

 けでヘトヘトになっている

 

・出かけるときは鍵かけとガス元栓締めを、出かけた先では落し物をしていないかを、何度も繰

 り返し確認し、気になると途中で引き返すので、用事がなかなか終わらず外出が辛くなる

 

 

 

 これらは、明らかに異常なルーティンです。本人もやめたいのですが、やめられない苦しさを感じています。

 

 強迫性障害は、基本的には障害年金の支給対象になりませんが、診断名は「発達障害」でした。そのため、支給されたのです。

 

 

 

■支給対象になる精神の病名

 

 ここで、障害年金の支給対象になる、精神での診断名を確認します。次のとおりです。

 

 ・「統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害」

 

 ・うつ病などの「気分(感情)障害」

 

 ・脳外傷や脳卒中による「症状性を含む器質性精神障害」

 

 ・「てんかん」

 

 ・「知的障害」

 

 ・「発達障害」

 

 

 

 他方で、基本的には障害年金の支給対象とならない診断名もあります。以前は「神経症」と呼ばれていた「不安障害」です。強迫性障害もこのグループに入ります。不安障害には、理由なく動悸、めまい、発汗などの発作を起こす「パニック障害」、強烈なショック体験などが心のダメージとなって時間が経ってからもその経験に対して強い恐怖を感じる「PTSD」などがあります(※1)。

 

 ※1…ただし、これらの診断名でも病態が「統合失調症」や「うつ病」などである、と診断書

   に記載されているときは、支給対象の診断名に準じて判断されます。

 

 

 

■診断名は「発達障害」

 

  障害年金が支給決定した、強迫性障害のある方たちの診断名は、「自閉症スペクトラム障害」や「広汎性発達障害」(どちらも以前の病名はアスペルガー症候群など)でした。「発達障害」の1つです。

 

 この障害は、社会的な対人交流が苦手で、社会生活に適応しにくい、強いこだわりなどの特徴があり、感覚過敏・鈍麻もあります。

 

 なお、発達障害の方すべてに強迫性障害が現れるわけではありません。また、強いこだわりが、強迫性障害を出現させることがあると解明されてきたことから、国際的な診断基準の最新版(※2)では、「不安障害」から切り離して分類されています。

 

 ※2…ICD-11(世界保健機構)

 

 

 

■初診の前に年金保険料を調べる

 

   障害年金を受けるためには、次の条件をすべて満たしていることが必要になります。

 

 1.保険料の納付状況

  …初診日の前々月から遡り、1年間、保険料の未納がないことなど(初診日の前日時点)

 

 2.障害の程度

  …初診日から1年6ヶ月経った時点で、またはその後65歳までに年金法で定める障害状態(日

   常生活を送ることに支障があるなど)であること

 

 3.初診日の証明

  …初診日に年金制度に加入していて、その日を医療機関が証明できること

 

 

 

 障害年金を考える場合、引きこもりの方の最初のハードルは、お医者さんにかかることです。何かしら治療の必要性を感じていても、受診できていないこともあるでしょう。そんな方がこれから受診するなら、年金保険料の支払い状況を、受診日より前に調べることをおすすめします。

 

 調べて条件を満たさなければ、これも受診前に、必要な手続きをしてください。上記のとおり、“初診日の前日”時点で審査されるためです。支払い期間が足りないからといって、初診日以後に納付するなどしても、障害年金の審査では認められないことに注意が必要です。

 

 

 

■終わりに

 

 引きこもり状態の誰もが、障害年金の対象になるとは思いません。ただ、閉鎖的な生活で情報も限られていると、なかには、障害年金の対象になることに気づけない方もいるのではないか、と推察しています。

 

 障害年金は心の安定にも効きます。受給が決まった、家族を巻き込むほどの強迫性障害を伴う「広汎性発達障害」と診断されたある方は、数年ぶりに会うと穏やかな表情を見せるようになっていました。お金がないことによる不安・焦りが和らぎ、外に出られる日が増えた、と話していたのが印象に残っています。 

 

[参考]

 

厚生労働省HP「みんなのメンタルヘルス」

 

 

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