丁寧で熱意あふれる取材から、ご本人・南雲明彦さんの苦しみが良く伝わる本です。
南雲さんは、20歳を過ぎるまで、自分が「読字障害―ディスレクシア―」であることを知りませんでした。アメリカでは、この、“知能には問題がない脳の中枢神経の障害”が広く知られており、専門の教育サポートも無料で受けられるそうです。トム・クルーズやスピルバーグもこの障害を持っていることは有名です。
ディスレクシアは、読んだり書いたりすることが苦手な障害です。多くの人は、文字を読むとき、頭のなかで音読し意味理解をする作業を自然にしていますが、ディスレクシアの人は、音読と意味理解の同時作業ができないそうです。
南雲さんは、大人になってこの障害を持っていることを知って、「怠け病じゃなかった。肩書がついた」、とホッとしたそうです。南雲さんを苦しめていたのは長い間、自尊感情が持てなかったことでした。“自分には価値があり、尊ばれるべき人間である”、という自尊感情は、生きていくための底力になるものです。この育みがないと、情緒の不安定な人間になってしまいます。
アメリカでは著名人が活躍しながら、この障害を公表しています。自尊感情が損なわれにくい教育環境ができているのでしょう。
一方、日本ではこの障害自体が知られるようになったのが比較的最近です(一例では、発達障害者支援法の施行は平成17年4月)。
南雲さんは、知識をもった教育者から早い段階で「君はディスレクシアだ」、と教えてもらっていたら、と語っています。努力してもできないことの理由がわからず、10代後半の南雲さんは前に進めなくなってしまいます。自分自身を咎めたり将来に絶望したり。苦悶の期間の記述は、読んでいて本当に胸が苦しくなります。
しかし、自身の障害を知ってからの南雲さんは、生まれ変わったように動いています。現在28歳の彼は、講演などで積極的にディスレクシアの理解を広げる活動をしています(南雲明彦OfficialWebsite)。
南雲さんが実名を公表したのは、ディスレクシアのことをもっと知ってもらいたい、という思いに駆られてでした。ディスレクシアの方たちの辛さの一端を理解するのにお勧めの一冊です。